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PhoneShell

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WIDE/PhoneShell

大野 浩之 (東京工業大学 大学院 情報理工学研究科)

■ はじめに

WIDE/PhoneShell は,WIDE プロジェクト黎明期の 1989年から研究開発が続けられているシステムで,簡単に言うと既存の公衆電話網上のメッセージやサービスとインターネット上のメッセージやサービスを相互交流させるためのゲートウェイ機構です.現在の言葉で言えば,CTI (Computer Telephony Integration) の先駆的な研究開発のひとつと言えますが,当時は CTI という言葉はまだ存在しませんでした.
電話(telephone)から計算機を操作するユーザインタフェース(shell) という意味を込め,当初はphoneshell と命名され,後に WIDE/PhoneShell と呼ぶようになりました.

WIDE プロジェクトにおける WIDE/PhoneShell 関連研究は,VOICE WG,PhoneShell WG, YAICS WG, WT-WG などで行われてきました.また,後述するように,東工大の大野,上智大学の矢吹(当時),慶應義塾大学の新美・草刈(いずれも当時)らが重要な役割を果たしました.
 

■ WIDE/PhoneShell のあゆみ

WIDE/PhoneShell と,これに密接に関連するシステムの誕生と成長を年度ごとにまとめると以下のようになります.

1989年度
この年,研究に着手しました.東芝から初代 Dynabook が発売され,一部のワークステーションに音声インタフェースが標準搭載されはじめた時期です.公衆電話網上の音声のメッセージをワークステーション上に取り込んだり,その逆を行う準備を大野がひとりで開始しました.

1990年度
UNIX ワークステーションから公衆電話網を制御する機構とワークステーション上で音声を録音再生する機構を準備し,同年1月末に簡単なテレホンサービスの運用を開始しました.最初に用意されたテレホンサービスは「電話をかけるとワークステーションがIP アドレスを入力するよう音声で指示してくるので,それに応じて IP アドレスをプッシュホン操作で入力すると,ワークステーション側が ping コマンドを実行し,その結果(すなわち応答があったか否か)を音声で返す」という単純なものでした.telephone ping と命名されたこのサービスは,携帯電話や携帯端末が普及していなかった当時,テレホンカード1枚あればどこからでもネットワークの稼働状況を把握できる機構として WIDE プロジェクトメンバに珍重されました.
のちにこのサービスは拡張され,実行可能なコマンドの種類も増え,実行結果を FAX で受け取るなどの機能も付加されました.

1991年度
UNIX ワークステーションから電話回線を制御する機構を利用し,電子メールから NTT DoCoMo の自由文型ページャにメッセージを転送するシステム(WIDE/PCS) を開発し,この年の 5月25日から WIDE プロジェクト内で公開しました.この種のサービスが日本で公式にはじまったのはこの5年後のことです.

1992年度
WIDE/PCS が,ネットワークの異常を通知する機構として活躍しはじめました.また,神戸で開催された inet92 において,WIDE プロジェクトメンバはサポートスタッフとして活躍しました.WIDE/PCS は,会場を飛び回るメンバ間の連絡機構としても活躍しました.

1993年度
上智大学の矢吹らによって Sophia/PhoneShell が,慶應義塾大学の草刈らにCHANT/PhoneShell が開発されました.特に Sophia/PhoneShell は,「電話をユーザインタフェースとする shell 」というWIDE/PhoneShell のコンセプトを的確に実装したという点で優れていました.

ネットワーク異常時の通報や管理者間のメッセージ交換等に WIDE/PCS が盛んに利用されるようになったのもこの年からですし,今でいうエージェントを用いたネットワーク監視機構(NMW)が開発され,WIDE/PCS と連携して動作させる実験もはじまりました.

1994年度
慶應義塾大学の新美によって,次世代 PhoneShell を目指した TNG/PhoneShell の研究が行われました.プッシュホンの操作によって WWW の情報を FAX で取り出す試みが行われ,URL を数字で表現する方法(数字化 URL) が検討されました.FAX まわりは HylaFAX を用いました.

1995年度
大野らによる WIDE/PhoneShell の開発は一段落し,その応用が模索されました.たとえば,EDU-WG の中心メンバである,九州芸工大の藤村,堀らと協調して,WIDE/PhoneShell と HylaFAX を使った一般向けの FAX サービスを開発し運用したりしました.

1996年度
WIDE/PhoneShell を利用したり支援する機構がいくつか登場してきました.大学のキャンパスなどにおいて,電話(音声),FAX, ページャ,電子メール,WWW のいずれかひとつ以上が使えれば自由にメッセージのやりとりができる環境の提供目指して CIDS (Campus Infomation Database System) はその一例です.また,Lifeline WG が開発運用する,被災者情報登録システム(IAA システム)にWIDE/PhoneShell 技術が利用できることを示すための準備がはじまりました.
この年から PhoneShell WG は YAICS WG になりました.

1997年度
YAICS WG は WT WG に生まれ変わりました.そして,その活動の一環として,WIDE/PhoneShell の拡張と応用が続けられました.IAA システムに WIDE/PhoneShell 技術が本格的に採り入れられるようになりましし,ファイアウォールの設定を変更するテレホンサービスを試作し,海外出張先からファイアウォールの設定を電話で変更するなどの試みも行いました.
 

■ 今後の展開

1989年に開発がはじまった WIDE/PhoneShell の研究開発は,さまざまな産物を生み出しつつ,現在も続いており,最近では他のWG の活動を支援する目的で利用されることも増えてきました.現在,東工大大野研究室では WIDE/PhoneShell の全面書き換えを行っており,10年目にして新しい版が登場することになりそうです.
 

■ おわりに

WIDE/PhoneShell に関する最新の情報は,WT WG のホームページ(http://www.wide.ad.jp/wg/wt/) か,東工大大野研の WIDE/PhoneShell関連ページ  (http://www.ohnolab.org/info/WIDE_PhoneShell/) から取得可能です.