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日本のインターネットの歴史を映す

WIDEプロジェクト10年の歴史

インターネットマガジン 1999年1月号掲載記事

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1988年、UNIXとネットワークの研究者たちが集まって、1つの研究会がスタートした。それが、日本だけではなく世界のインターネットをも牽引し続けてきた「WIDEプロジェクト」である。1998年に10周年を迎えたWIDEプロジェクトの歴史は、そのまま「日本のインターネットの歴史」と言い換えても過言ではない。ここで歴史を振り返りながら、その業績と今後の課題を考えてみたい。
 

年表でたどるWIDEプロジェクトの10年


通信とインターネットのトピック WIDEプロジェクトの歴史
1981 1969年、米国防総省が分散型コンピュータ
ネットワーク「ARPAネット」の研究をスタート

1974年、N1ネット(大学間ネットワーク)の開発スタート

1980年、TCP/IPが国防総省標準になる
電電公社がパケット交換網の運用を開始

・1981年、N1ネット運用開始




村井氏らが回線工事の
ために潜った慶應大矢上
キャンパス内のマンホール

1982 TCP/IPをARPAネットで採用 ・村井純氏らがUNIXベースのネットワークを慶應大矢上校舎内に構築
1983 ARPAネットが、MILネットとARPAネットに分離
1984 DNS(Domain Name System)が考え出される ・東工大、慶應大がモデム(300bps)でつながる
・東工大、東大、慶應大がモデム(1200bps)でつながる
・JUNET(Japan University Network)スタート
1985 TCP/IPソフトがBSD UNIXに組み込まれて普及
電電公社民営化、NTTに
新電気通信事業法が施行される
・情報処理学会で村井氏が「JUNET」を発表
・UNIXユーザーを中心に、WIDEプロジェクトの前身となる「WIDE研究会」発足
1986 アメリカ科学財団のCSネットが運用を開始
NSFネットが新設される
JUNETで日本語メールが開始され、ユーザーが増える
JUNET、米国のCSネットに初めての国際接続
1987 カード式自動車公衆電話、携帯電話のサービス開始 ・CSネットとJUNETが接続。ユーザーに対し、CSネットのサービスを暫定的に開始
・東大、東工大間を64Kbps接続
1988 NSFネットのバックボーンがT1回線に増強
INS64のサービスがスタート
第1回インターロップ、サンタクララで開催
・1月、慶應大が接続
・8月、WIDEプロジェクト発足。
初の研究合宿を実施


少人数で実施された
最初のWIDE合宿

研究テーマ
ネットワーク構築/X.25(パケット交換網)やISDNを利用する技術開発/ネットワークセキュリティー/音声通信(インターネット電話)/自動翻訳システム

1989 CSネット接続が東大より学術情報センターへ移管
TISN(国際理学ネットワーク)とJAIN(Japan Academic Inter-university Network)がスタート
アドレス表記の「jp」への移行完了
WWWプロトタイプができる

・1月、村井氏がNACSISの協力のもとにNSFネットと東大を接続(9600bps)
・8月、WIDEが64Kbpsの専用線によりハワイ経由対米接続(64Kbps)
・9月、WIDEネットワークセンターを東京の岩波書店社屋内に設置(WNOC東京)
・11月、WNOC京都設置(ASTEM)

NSFネットと東大の接続に使った9600bpsのモデム

研究テーマ
ネットワーク構築/X.25(パケット交換網)やISDNを利用する技術開発/ネットワークセキュリティー
WNOC東京の設置は、すべてWIDEメンバーの手作業で行われた

1990 JUNETのサイト数が289から452に。また700を超える組織が接続
ARPAネット終了(NSFネットなどに吸収)
UUNet、PSInetなどの商用プロバイダー設立
・3月、WNOC大阪設置(千里国際情報事業財団)
・4月、WNOC-SFC設置(慶應大SFC)
・12月、WNOC福岡(システムソフト)設置

研究テーマ
移動体通信/ディレクトリーサービス/分散ファイルシステム/マルチメディア/オペレーティングシステム/電話を使ってインターネットにアクセスする「Phone-Shell」の研究

1991 初のインターネット国際会議「INET'91」がコペンハーゲンで開催
日本ネットワークインフォメーションセンター(JNIC)発足、JUNET ADMINが行っていたドメイン名管理業務を行う
WWW、Gopher、Wide Area Information Servers(WAIS)リリース
CSネット終了

・8月、WNOC仙台設置(AIC)
・10月、SFC-ハワイ大PACCOMを192Kbpsに増速
・10月、WIDE合宿にネットワークを持ち込む(64Kbps)

合宿では、ドアスコープや空調配管用の
穴を利用して各部屋を配線した

研究テーマ
インターネットの社会的影響や技術移転/マルチキャスト通信(Mbone)/移動体通信(VIP)/ファイルシステム(WWFSによる情報の共有システム)/ポケベルによるインターネットへのアクセス

1992 ISOC設立
JUNET協会設立
SINET(学術情報ネットワーク)スタート
 
・6月、神戸でINET'92開催
・7月、WNOC広島設置(広島大学)
・12月、インターネットイニシアティブ(IIJ)設立
WIDEと相互接続

INET'92は日本で開かれた
最初の国際学会

研究テーマ
インターネットと教育/トンネリング技術の開発/原子時計による時刻同期システム/パソコン通信との相互接続実験(NIFTY serveとPC-VAN
との電子メールの交換)/通信衛星(CS)を利用したデータ通信

INET'92には世界中から参加者が集まった

1993 ゴア副大統領が情報ハイウェイ構想を発表
InterNIC設立
JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)発足
AT&T Jensが国内・国際IPサービスを開始
NCSAがMosaicを配布
日本インターネット協会(IAJ)が発足
・4月、WNOC奈良設置(奈良先端科学技術大学院大学)
・5月、WNOC北海道設置(札幌エレクトロニクスセンター)
・6月、国際接続をハワイ大学からNASA(FIX-W)へ変更

研究テーマ
ファイアウォール技術/パソコン通信との相互接続実験(telnet→パソコン通信、パソコン通信→telnet)

1994 ネットスケープ、Yahoo!などのインターネットベンチャー企業が続々と創業
NSFネットバックボーンがその役割を終了
N+I 94が日本で初めて開催
9月、インプレス「インターネットマガジン」創刊
JUNETが役割を終えて発展的解散
商用パソコン通信とインターネットが接続
・7月、WNOC浜松(静岡大学)、WNOC八王子(東京工科大)を設置
・9月、WIDE合宿にVSAT可搬局を持ち込み2Mbpsの衛星回線接続
・12月、WNOC-SFO(サンフランシスコ)設置。国際回線1.5Mbpsへ増強
・NSPIXP-1がスタート

研究テーマ
災害時のインターネット活用を検討する「ライフラインWG」がスタート。IAA実験など/リアルタイム通信/WISH(衛星回線を用いたインターネット技術)

衛星通信のための可搬型パラボラアンテナ

1995 1月、阪神大震災
RealAudioリリース
11月、Windows95が日本で発売、日本国内のインターネットブームに弾みを付ける
Shockwaveが登場
・9月、WNOC岐阜設置(ソフトピアジャパン)
・北陸先端大をWNOC小松として機能させる
・11月、坂本龍一氏のコンサートをインターネットでライブ中継(武道館)

坂本龍一氏のコンサートはインターネットを通じて世界に発信された

研究テーマ
IPv6/情報検索/AI3(アジアインターネット相互接続)/広域無線パケット網を用いた通信実験

1996 gTLDの検討開始
PHSサービス開始
ストリーミングコンテンツ増加
国内で初めて、わいせつな図画をWWWに掲載・販売していた者が逮捕される
Internet Explorer3.0登場、ブラウザー戦争勃発
12月、インプレス「インターネットウォッチ」創刊
OCNがスタート
・インターネット1996ワールドエキスポジション(IWE'96)開催。バックボーンとしてT3(45Mbps)の国際線を利用
・1月、第1回インターネット災害訓練実施
・6月、WNOC東京-WNOC奈良間の専用回線を利用してIPv6を運用
・アトランタオリンピックのサイト運営に協力
・NSPIXP-2スタート
・スタンフォード大学等とモービルコンピューティングの共同実験を開始

研究テーマ
IP層でのセキュリティー技術/移動体通信でのセキュリティー技術/ネットワーク聴診器

インターネットカーのエンジン部には、
通信関連機器の給電のための
ダイナモが搭載されている

1997 検索サービス「goo」が登場
6月、神戸小学生殺人事件の容疑者の実名や写真がネット上に流出、社会問題化
プッシュ技術に注目が集まる
Netscape Communicator 4.0/Internet Explorer 4.0リリース
パソコン通信のASCII-netと日経MIXがサービスを終了
大阪府警が画像モザイク処理ソフト「FLMASK」の作者を逮捕 
・大阪にNSPIXP-3を設置
・SOI(School of Internet)プロジェクトがスタート。SFCと奈良先端科学技術大学院大学の授業をインターネットで公開

研究テーマ
インターネットカー/ラベルスイッチ/IEEE1394/lifelong(生涯にわたって利用できるインターネットの構築)/公開鍵による利用者認証実験/WWWキャッシュ技術/インターネットフォン、インターネット電話/UDLR技術

1998 長野オリンピック公式サイトへのアクセス数が約6億3,500万ヒットを記録
サッカーのワールドカップ・フランス大会公式サイトが約11億ヒットを記録、ギネスブックのインターネット部門の4つの記録を更新
米クリントン大統領の不倫もみ消し疑惑について、スター独立検察官の報告書に続き、大陪審でのビデオ証言がリアルビデオで公開され、膨大なアクセス数を記録
・長野オリンピック、長野パラリンピックのサイト運営に協力
WIDEプロジェクト10周年記念シンポジウム開催

IBMからWIDEプロジェクトに贈られた記念品

研究テーマ
SOI(School of Internet)/インターネットカー/ラベルスイッチ技術/IPv6/Differenciated Services (Diff-serv)/利用者認証技術

WIDEプロジェクト10周年記念
シンポジウムには多数の人が参加した


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