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NTP

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NTP Working Group

大野 浩之 (東京工業大学 大学院 情報理工学研究科)


1. はじめに

NTP ワーキンググループは,1992年度から1995年度にかけて活動した ワーキンググループです.本ワーキンググループは 文部省国立天文台三鷹キャンパス(旧東京天文台)のスタッフと共同して, 以前から同キャンパスに設置され協定世界時(UTC) を正確に「保時」 しているセシウム原子時計から時刻情報を直接取得可能な PC(パーソナル コンピュータ)を作りました.そして,この PC 上で NTP サーバを動かして インターネットに正確な時刻情報を供給するシステムを構築しました.これを 「セシウム原子時計直結型 NTP stratum 1 サーバ」(以後,NTP stratum 1 サーバ) と名付けました.本ワーキンググループはすでに活動を終了しましたが, この NTP stratum 1 サーバは現在もその任務を果たしています.

2. 活動内容の概略

NTP ワーキンググループの活動を簡単にまとめると以下のように なります.

2.1 1992年度

セシウム原子時計からの時刻情報をPCに取り込むための方式を いくつも検討し,最終案に基づいてインタフェース(カウンタユニット, 詳細は後述)の設計と実装を行いました. また,カウンタユニットを介して時刻を読み出すプログラムを試作し, 動作の確認を行いました.

2.2 1993年度

NTP stratum 1 サーバを PC UNIX のひとつである BSD/OS 上で運用することに決定し,そのカーネルを改造しました. 具体的には システムコール gettimeofday() が,PC の内蔵時計ではなくカウンタ ユニットにアクセスし,セシウム原子時計が刻む時刻を取り込む ようにしました.この改造だけで,NTP サーバを含む PC 上のすべての アプリケーションやコマンドが,セシウム原子時計に同期した正確な時刻を 利用できるようになりました. なお,セシウム原子時計からの時刻信号が 1Hz と 1MHz で あったこと,BSD/OS 側の改造を最小限に押えたこととなどから, この NTP stratum 1 サーバの粒度は 1μ秒となりました. NTP stratum 2 サーバの時刻が実際にはどのくらい揺らぐのかを 計測し,多くの場合 1msec 程度であることを示したのもこの年度です.

2.3 1994年度

閏秒の挿入に問題があったりしましたが, 管理用コマンドもほぼ完成し,安定運用期に入りました. 当然ながら,NTP stratum 1 サーバは連続運転を続け, 国内の 100を越える組織からアクセスされるようになりました. また,全く同じ構成の予備機の運用もはじまりました. このころから GPS 受信機使えば NTP stratum 1 サーバを 容易に実装できるようになりました.今では,わざわざ国立天文台の NTP stratum 1 サーバにアクセスしなくても,正確な NTP stratum 1 サーバを誰でも簡単に用意できます.

2.4 1995年度

UTC に正確に時刻同期している計算機が普及しはじめたので 通信時間を往路と復路で別々に測定することが容易になり ました.そこで,片道 ping なるプログラムを作り,トラフィックと 通信時間の関係を調べました.

3.セシウム原子時計直結型 NTP stratum 1 サーバ

すでに述べたように,NTP stratum 1 サーバのもっとも重要な部分は, セシウム原子時計から正確な 1Hz 信号と 1MHz 信号を受け取って これをカウントする部分とその結果を PC に送り込む部分です. 前者をカウンタユニットといい, 秒単位で時刻をカウントする 32bitカウンタと μ秒単位で1秒以下の時刻をカウントする 32bit カウンタから 構成されています(図1).

このカウンタの構成は,UNIX カーネル内で時刻を保持する構造体に (struct timeval) に構造をあわせてあり,後処理を最小限にしています. なお,カウンタの出力はパラレルI/Oカードを介して,BSD/OS に取り込まれます. カウンタユニットは国立天文台スタッフの手で作成されました. 外観を図2 に示します.


図1. カウンタユニットの構成


図2. カウンタユニットの外観

4. おわりに

現在,この NTP stratum 1 サーバは,{\tt cesium.mtk.nao.ac.jp} 上で稼働 しています.しかし,国立天文台の時刻保時業務が岩手県水沢市の 国立天文台水沢キャンパスに移ったため, NTP stratum 1 サーバも今年度中に岩手県の水沢に移転する予定です. 三鷹キャンパスで稼働中の NTP stratum 1 サーバは,現在利用中の セシウム原子時計が寿命を迎えた時点で運転を停止します.残念ながら おそらくあと1年はもたないと思われます. なお,本セシウム原子時計直結型 NTP stratum 1 サーバに関する 各種情報は,近日中に http://www.ohnolab.org/info/NTP/ に 掲載する予定です.